ビジネスと人権入門。中小企業の離職を防ぎ成長に導く実務のコツ。

毎日現場を飛び回り、資金繰りや売上アップに頭を悩ませている経営者の皆様、本当にお疲れ様です。最近ニュースなどでビジネスと人権という言葉を耳にする機会が増えましたが、正直なところ、大企業や海外に工場を持つグローバル企業の話であって、うちのような数十人の会社には関係ないと思われていないでしょうか。

実は今、この人権への配慮が、中小企業における人材不足や突然の離職を防ぎ、さらには取引先からの信頼を獲得するための強力な武器になることが分かってきています。

この記事では、専門的な法律用語は極力使わずに、なぜ今の中小企業に人権の視点が必要なのか、そして具体的に明日から何に取り組めばよいのかを分かりやすく紐解いていきます。これを読めば、人権という言葉の堅苦しいイメージが消え、会社を伸ばすための具体的なヒントが見つかるはずです。

ビジネスと人権と聞くと、発展途上国での過酷な労働などを想像するかもしれません。しかし、日本の一般的な中小企業における人権問題はもっと身近なところに潜んでいます。たとえば、上司からの度を越えた厳しい指導、いわゆるパワーハラスメントや、終わりの見えない長時間労働、外国人労働者やパートタイム従業員に対する不適切な待遇なども、すべてビジネスにおける人権問題に直結します。

現在、多くの大企業が自社のサプライチェーン、つまり部品の調達から販売に至るまでの一連の流れの中で、人権侵害がないかを厳しくチェックし始めています。大企業の取引先である中小企業に対しても、従業員の人権を守る取り組みをしているかどうかを問うアンケートが送られてくるケースが急増しているのです。もしここで適切な回答ができなければ、長年の取引を見直されてしまうリスクすらあります。

ここで少し、脳科学の視点を取り入れてみましょう。人がハラスメントを受けたり、不公平な扱いを感じたりすると、脳の扁桃体という感情をつかさどる部分が過剰に反応し、強い警戒モードに入ります。この状態では、論理的に考えたり新しいアイデアを生み出したりする前頭葉の働きが著しく低下してしまいます。つまり、人権が軽視されている職場では、従業員の脳が常に生存の危機を感じており、本来の能力を発揮できないばかりか、メンタル不調や突然の退職を引き起こしやすくなるのです。逆に言えば、人権が守られ安心できる環境が整っていれば、従業員の脳はリラックスし、自発的な行動やチームワークが自然と生まれるようになります。

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。まずは、難しい法律の条文を読み込む必要はありません。大切なのは、自社の足元を見つめ直すことです。従業員が心身ともに健康で働けているか、現場で誰かが無理をしていないか、日々の何気ないコミュニケーションの中に相手を傷つけるような言葉が混ざっていないかを確認することが第一歩となります。

また、会社として従業員を大切にするという姿勢を、経営者自身の言葉で明確に発信することも非常に重要です。立派な文章である必要はありません。私たちの会社は、働くすべての人の権利と尊厳を守りますというシンプルなメッセージを社内外に宣言することが、取引先へのアピールにもなり、求職者に対する大きな安心材料にもなります。

さらに、問題が起きたときにそれを隠さず、早期に発見できる仕組みを整えることも欠かせません。人間が集まれば、どれほど気をつけていてもトラブルや認識のズレは生じるものです。大切なのは、問題が起きないようにすること以上に、小さな不満や違和感の段階で従業員が安心して相談できる環境を作ることです。

  • 自社の身近な労働環境を見直す。長時間労働が常態化していないか、ハラスメントの芽となるようなコミュニケーションがないか、現場の実際の声をヒアリングして現状を把握します。
  • 会社としての基本方針を言葉にする。働く人を大切にするという経営トップの思いを方針として明文化し、従業員や取引先に対して明確に伝えます。
  • 安心して相談できる窓口を整備する。社内外で困りごとがあった際に、不利益な扱いを受けることなく安心して声を上げられる相談窓口を設置し、初期段階で問題を解決できる仕組みを作ります。

ビジネスと人権への配慮は、決して会社を縛るための面倒な法律のルールではありません。それは、縁あって集まってくれた従業員一人ひとりを大切にし、彼らが持つ本来の力を引き出すための土台づくりです。従業員が安心して働ける環境を整えることは、結果的に離職率を下げ、採用を有利にし、取引先からの信頼を盤石なものにして会社の成長へと繋がります。いきなり完璧を目指す必要はありません。まずは目の前の従業員の顔を思い浮かべ、彼らがより働きやすくなるためにできる小さな一歩を踏み出してみてください。私たちは、そんな人を大切にする経営者様の伴走者として、これからも全力でサポートさせていただきます。

社会保険労務士 吉良山美由紀

経済産業省ウェブサイト 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン

厚生労働省ウェブサイト 職場におけるハラスメントの防止について

ILOウェブサイト 労働の基本原則と権利

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