メンタル疾患による労災認定。過重労働とパワハラの関連性を再確認。
「うちの社員、最近休みがちで……」「少し厳しく指導したら、パワハラだと言われてしまった」。初めて社員を雇った、あるいは数名の社員を抱える社長様から、このようなご相談を受けることが増えています。
経営者として、会社を成長させたいという熱い思いから、つい指導に熱が入ってしまうこともあるでしょう。しかし、その熱意が、気づかないうちに社員のメンタル疾患を引き起こし、労災認定、ひいては会社の存続を揺るがす大きな問題に発展してしまうことがあります。
この記事を読めば、メンタル疾患による労災認定の仕組み、特に「過重労働」と「パワハラ」がどのように関連して判断されるのかが分かり、社員を大切にしながら会社を伸ばすための具体的な対策が見えてきます。
メンタル疾患の労災認定は「過重労働」と「パワハラ」など複数の要因が絡み合って判断されるため、日々の労働時間管理と適切な指導が不可欠です。
メンタル疾患による労災認定の仕組み
社員がうつ病などのメンタル疾患を発症した場合、それが「業務によるもの(労災)」と認められるかどうかは、労働基準監督署によって判断されます。その判断の基準となるのが「心理的負荷による精神障害の認定基準」です。この基準では、発病前の約半年間に、業務によって「強い心理的負荷」を受けたかどうかが重要なポイントになります。
心理的負荷の強さは、「特別な出来事」があったかどうか、あるいは複数の出来事が重なっていないかなどを総合的に評価して決まります。例えば、極度の長時間労働はそれだけで「特別な出来事」として強い負荷とみなされますが、そうでない場合でも、仕事の失敗、役割の変化、対人関係のトラブルなど、様々な出来事の組み合わせが考慮されます。
「過重労働」と「パワハラ」の関連性
ここで特に注意していただきたいのが、「過重労働(恒常的な長時間労働)」と「パワハラ」の関連性です。
例えば、新しいプロジェクトを任されたり、業務量が急激に増えたりして、長時間労働が常態化しているとします。認定基準では、1ヶ月に100時間程度の時間外労働を「恒常的長時間労働」と呼んでいます。もし、この恒常的長時間労働の最中に、仕事でミスをして上司から厳しい叱責を受けたとしましょう。通常であれば、その叱責単独では心理的負荷が「中」程度と評価されるものであっても、長時間労働という背景があることで、総合的な心理的負荷は「強」と判断されやすくなります。
逆に、上司から日常的にパワハラを受けていたとします。認定基準では、1回限りの叱責でも、それが「執拗」に行われた場合はパワハラと認定される可能性があります。このような状況下で、さらに長時間労働が重なると、本人は肉体的にも精神的にも逃げ場を失い、メンタル疾患を発症するリスクが飛躍的に高まります。また、パワハラを受けた社員が会社に相談したにもかかわらず、会社が適切な対応をとらなかった場合、それはさらに心理的負荷を強める要因として評価されてしまいます。
脳科学の観点からも、強いストレス状態が長く続くと、脳の扁桃体が過剰に反応し、冷静な判断ができなくなったり、抑うつ状態に陥りやすくなることが分かっています。
実務で確認したいポイント
- 労働時間の正確な把握と管理: タイムカードだけでなく、持ち帰り残業や、早出・居残りなどの実態がないか、客観的な記録で労働時間を把握することが重要です。
- 指導とパワハラの境界線の認識: 指導のつもりでも、他の社員の面前で大声で叱責したり、長時間執拗に責め立てたりする行為は、パワハラとみなされる危険性があります。
- 相談窓口の設置と迅速な対応: 社員がSOSを出せる体制を整え、ハラスメントの訴えがあった場合には、放置せずに速やかに事実確認と改善措置を行うことが、会社を守る上で不可欠です。
まとめ
メンタル疾患による労災認定は、単一の出来事だけでなく、過重労働とパワハラなど、複数の要因が絡み合って判断されます。 経営者の皆様には、社員の健康状態の変化に気を配り、風通しの良い職場環境を作るための伴走者となっていただきたいと思います。
社会保険労務士 吉良山美由紀
参考・情報源
笠置裕亮・山岡遥平 著【実践労働法実務】労災におけるメンタル疾患の法律実務(旬報社)
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