休職期間満了と復職トラブルを防ぐ就業規則の見直し
従業員のメンタルヘルス不調による休職や復職への対応は、中小企業の経営者や人事労務担当者の皆様にとって、非常に頭を悩ませる問題の一つではないでしょうか。体調が戻ったように見えて復職したものの、わずか数日で再び出社できなくなってしまったという事態に直面したとき、就業規則に基づいてそのまま自然退職として扱ってよいのかどうか、判断に迷う場面は少なくありません。この記事では、復職直後の再欠勤をめぐり、休職期間の通算規定の解釈が争われて会社側に多額の支払いが命じられた裁判例をもとに、会社と従業員の双方が安心して働ける職場環境づくりと、実務で今すぐ点検すべき就業規則のポイントを分かりやすく解説します。
休職・復職に関する規定の文言や判断基準があいまいだと、予期せぬ法的トラブルにつながる恐れがあるため、就業規則の見直しと明確なルール化が重要です。
休職と復職の判断をめぐるトラブルと裁判例
休職と復職の判断をめぐるトラブルの背景には、会社の善意や独自の解釈と、就業規則の文言との間に生じるすれ違いがあります。都内の輸入販売会社である事業所X社では、うつ状態で休職していた従業員の復職をめぐり、大きな法的トラブルへと発展しました。この従業員は月額賃金60万円で契約しており、勤続期間に応じた休職期間の上限である6カ月間を使い切る直前に復職可能の診断書を提出しました。会社側は産業医による面談や数日間の試し出社を経て出社を認めましたが、本出社からわずか数日後に再び体調を崩して欠勤に入ってしまいました。
会社側は、就業規則に定められた休職期間満了までに休職理由が消滅しなかったとして、出社していた最後の日をもって自然退職とする通知を行いました。しかし、従業員側は退職の無効と給与の支払いを求めて提訴しました。裁判所は、試し出社を経て出社を認めていたことから会社は復職を承認していたと判断し、休職期間が満了した時点で休職事由はいったん消滅していたと認定しました。さらに、会社の就業規則にあった前後の休職期間を通算する規定が、休職期間の途中において復職した者を対象としていたため、期間を満了した後に復職した今回のケースには適用できないと結論づけました。その結果、自然退職は無効とされ、1000万円を超える未払い賃金などの支払いが会社側に命じられました。
トラブルを防ぐための実務上の考え方
人が強いストレスや環境の変化に直面したとき、本人が意欲を見せていても、心身が新しい刺激に適応しきれず一時的に体調を崩してしまうことがあります。復帰直後は誰もが緊張と不安を抱えており、張り詰めていた気持ちが途切れた瞬間に再び動けなくなるのは、人間の防衛反応としても自然な現象です。だからこそ、現場の焦りや制度の形式的な当てはめだけで判断するのではなく、人の心と体の回復プロセスに寄り添った設計が求められます。
実務上の考え方として最も注意したいのは、就業規則の条文が実際の運用実態や想定されるリスクに即しているかという点です。今回の裁判例でも、会社側は休職と復職が繰り返される事態を防ぐための趣旨を主張しましたが、裁判所は、従業員の身分を失わせる自然退職という重大な効果を発生させる以上、規定の文言を離れて安易に解釈を広げることはできないと厳格に判断しました。規定の言葉一つで会社の対応が違法と判断されてしまうリスクを強く示しています。
また、復職の可否を判定するステップの明確化も重要です。主治医による復職可能の診断書だけでなく、職場で求められる業務を安全に遂行できる状態まで回復しているかを客観的に見極める基準をあらかじめ定めておく必要があります。試し出社などのリハビリ勤務を実施する場合も、その期間が休職期間中の一環としての扱いなのか、正式な復職と位置づけるのかをあらかじめ労使間で明確に合意しておかなければなりません。
実務で確認したいポイント
- 就業規則の休職通算規定において、休職期間の途中で復帰した場合だけでなく、満了近くや満了後に復職して再発した場合の取り扱いが明確に記載されているか確認すること。
- 復職の判断基準について、単に医師の診断書だけでなく、職務遂行能力の回復や産業医等の意見聴取、試し出社の位置づけをあらかじめルール化しておくこと。
- 体調不良による再欠勤が発生した際に、一方的な退職処理を急ぐのではなく、本人の状況把握と慎重な手続きの確認を行う体制を整えておくこと。
まとめ
従業員の休職や復職への対応は、法律を守るという形式的な手続きにとどまらず、働く人の健康を守りながら会社全体の活力を維持するための大切な取り組みです。就業規則の文言を丁寧に整え、無理のない復帰支援の仕組みを構築しておくことは、予期せぬ法的トラブルから会社を守るだけでなく、従業員が安心して復職を目指せる信頼関係の土台となります。自社のルールをいま一度見直し、人を大切にする職場づくりを進めていきましょう。
参考・情報源
労働新聞 令和8年8月17日第3557号2面 掲載記事【労働新聞社】
30分の無料Zoom相談、またはメール1往復でのご相談を承っております。まずはお気軽にご連絡ください。

